真空管への憧れ
バンドやDAWで音楽を始めた2009年頃から。
「真空管は良いらしい」という感覚を、漠然と持っていました。
真空管が乗ったギターアンプHughes&Kettner TubeMeister Deluxe 40。
コンパクトエフェクターBeyond Tube Booster。
真空管が見えるように搭載されているKORGのステージピアノ、SV-1。
そういった真空管が見えるように搭載されている機材に、とても憧れを抱いていました。
でも当時は、具体的に何が良いのかはよく知りませんでした。
しかし、デジタルサンプリング音源や、優秀なプラグインソフトウェア音源が当たり前の時代になっていた2010年前後。
その頃に音楽制作を始めた私にとっては。
「目に見えない音」を出す機械に、「目に見えて動いてる何か」が付いていることは、とても真新しく新鮮に映りました。
まるで心臓が剥き出しになっているかのような、美しい生々しさ。
メカの心臓って高揚しませんか?(笑)


susuman
当時から私の中では真空管は、
「なんかいいやつ」
「暖かくて太くなるやつ」
「かっこいい」
「ニッチだから、選んでる人はなんかかっこいい」
こんな程度の認識でした。
そして16年経った今も、その高揚感全く変わりませんでした。
満を辞して、完全に見た目に心を撃ち抜かれて買ったのが、真空管が2つ搭載されたKORGのEMX-1です。

いやもう真空管、好きすぎる。
もうそろそろ、これはちゃんと理解したい。
そう思って、セミナーに行ってみたり、本を読んだりして、一応私の中では理解ができました。
私と同じような「よく分からんけど真空管愛好家」の方の参考になればと、このレポートを書いてみます。

susuman
忘れないように、またいつか復習できるように、とことん噛み砕いてみました。
それでは早速まいりましょう。
そもそも、電子とは?電気とちがう?
真空管の話をする前に、まずは電子と電気について理解を深めていきましょう。
そんなの分かるわい!って方は、飛ばしちゃってください(笑)
電子は、ものすごく小さなつぶ
世の中のものは全部、ものすごく小さな粒でできています。
その粒のまわりを、さらに小さな粒がくるくる回っています。
これが電子です。
電気は、電子の流れ
その電子が、電線の中を流れていくこと。
これが電気です。
水道管の中を、水が流れていくのと同じですね。
電子が流れる=電気が流れる。
まずは、これだけ覚えておけば大丈夫です。

真空管の中には、ヤカンと門とバケツがある
真空管の中には、主に3つの部品が入っています。
下から順番に、こう例えると分かりやすいです。

- ヤカン(フィラメント)
電球と同じで、熱くなって赤く光る部分。
熱くなると、お湯から湯気が出るみたいに、電子がどんどん飛び出してきます。 - 門(グリッド)
真ん中にある、スカスカの金属の網。
ここで、電子の「通る量」を決められます。 - バケツ(プレート)
一番上にある金属の板。
飛び出してきた電子を受け止めます。
これにより、破損や過熱による黒ずみを抑えます。

susuman
電子は、ヤカンから飛び出して、門を通り抜けて、バケツに届く。
下から上への一本道です。
門は、どうやって通す量を決めているの?
電子は「マイナス」が嫌いで、マイナスに押し返されます。
- 門がマイナス強め
→ 電子が押し返されて、あまり通れない - 門がマイナス弱め
→ 電子がたくさん通れる
門の網の形は、ずっと同じです。
いちいちフォルムチェンジしたら、それはそれでかっこいいけど(笑)

susuman
変わるのは、目に見えない「押し返す力」の強さだけです。
ほんの少しのマイナスの力の変化で、通る電子の量が大きく変わります。
なんで「真空」なの?
ガラスの中に空気があると、こんなことが起きます。
飛び出した電子が空気の粒にぶつかって、バケツまで届かない。
邪魔なものがない道を作るために、中の空気を抜いて、真空にしています。

信号ってなに?影絵で考えてみる
ここで、もう一つ大事な言葉が出てきます。
信号です。
電子は「モノ」で、信号は「メッセージ」。
手紙で例えると、電子は紙とインク、信号は書かれた文字です。
電子はどれも同じ粒ですが、その流れが「どんなふうに強くなったり弱くなったりするか」というゆれ方の形が、信号になります。
文字(信号)を書くために、紙(電子)が揺れてるみたいな感じです。
音は、そのゆれ方の形そのものです。
影絵で例えると
真空管の中で起きていることは、影絵にそっくりです。

- 大きなライト
ヤカン(フィラメント)から出る、たくさんの電子。
スポットライト。
強いけれど、それ自体には何の形もない。 - 猫
門に入ってくる、小さな信号。 - 壁に映る猫の影
バケツに届いて出ていく、大きな信号。
ライトの光には形がないのに、猫が光の前で動くと、壁に大きな猫の影が映りますよね。

susuman
ここでいう「信号」は、手にも影にも共通している猫の姿のことです。
姿は同じで、大きさだけが違う。
そして、力(明るさ)はライトから、形は猫から。
この2つが真空管の中で合わさって、小さな音と同じ形の、大きな音になります。
これが増幅です。
太い音や、大きい音の正体。
小さな音が、大きな音になるまでの旅
たとえば、マイクで歌った声が、スピーカーから大きく流れるまで。
音は、こんな旅をしています。
- 声(空気のふるえ)が、マイクの中の薄い膜にぶつかる
- 膜が声と同じ形でゆれて、そのゆれの形が猫だった(小さな電気のゆれ、すなわち信号に変わる)
- 信号(猫の形の情報)が、真空管の門に入る
- ヤカンから出るたくさんの電子に、信号(猫の形)が写し取られて、大きな猫(信号)になる
- 大きな猫(信号)が、スピーカーで大きな声(空気のふるえ)になって戻る
音は一度、電気に姿を変えて、大きくなってから、また音に戻ってくるんですね。


susuman
ちなみに、マイクは音を「記録」しているわけではなく、その場で電気に変えているだけです。
よくあるダイナミックマイクは、空気のふるえを電気に。
スピーカーは、電気を空気のふるえに戻します。
真空管は、どこから来たの?
じつは真空管は、最初から音楽のために生まれたものではありません。
始まりは、電球の困りごと
1880年代、エジソンは、電球のガラスが熱により、だんだん黒くなってしまう問題に悩んでいました。
そこで電球の中に金属の板を入れてみたのです。
すると、黒くなるのは止められなかった代わりに、「熱いフィラメント(ヤカン)から、プレート(バケツ)へ電気が流れる」という不思議な現象を見つけました。

susuman
真空管が電球にそっくりなのは、そもそも電球から生まれたからなんですね。
無線のための部品に
1904年、イギリスのフレミングがこの現象を使って、遠くから届く、弱い電波を受け取る部品を作りました。
これが、ヤカンとバケツだけの「二極管」です。
その後1906年には、アメリカのド・フォレストが、そこに「門」を足して「三極管」を作りました。
これにより、弱い電波を大きくできました。
増幅の始まりです。

電話、拡声器、ラジオ…そして音楽へ
そこから真空管は、時代ごとに役割を変えていきます。
- 電話(1913年〜)
アメリカのウェスタン・エレクトリックが、長距離電話の声を、途中で大きくし直すために真空管を作りました。 - 戦争(1918年)
第一次世界大戦の過酷な現場でも使えるよう、軍用に改良された「VT-2」が生まれました。
こちらは現物を、那須塩原市にある那須科学歴史館にて見ることができます。 - 拡声器(1915年)
サンフランシスコのクリスマスイブのコンサートで、マイクと真空管アンプとスピーカーを使って、10万人に声と音楽を届けました。
作ったのはジェンセンとプリダムの2人で、システムの名前は「マグナボックス」。
ラテン語で「大きな声」という意味です - ラジオ(1920年〜)
世界初の公共ラジオ放送が始まり、ラジオ用の真空管がたくさん作られました。 - レコード(1925年〜)
音のゆれを記録したレコードが登場し、真空管を使って大きな音を楽しめる道具になっていきました。

susuman
音楽のために生まれたものではないのに、今では「いい音」の代名詞になっている。
ここが、真空管の面白いところです。
真空管は、トランジスタ(半導体)に置き換わった
1946年にアメリカで作られた最初期のコンピュータ「ENIAC」は、真空管を約1万8000本も使っていました。
部屋をまるごと埋めるほどの大きさです。
でも真空管には、困ったところもありました。
- 大きい
- 熱くなる
- 電気をたくさん使う
- 寿命があって、切れる
そこで「真空管と同じ増幅を、真空管を使わずにできないか」と研究が進見ました。
そこで1940年代後半に生まれたのが、トランジスタ。半導体です。
小さくて、熱くなりにくくて、壊れにくい。
通る電気の量も、より精密にコントロールできるようになりました。

susuman
今のスマホやパソコン、ほとんどの音楽機材の中で、この子孫たちが働いています。
こうして真空管は、主役の座を降りました。
……はずでした。
なぜ今も「いい音」と言われるの?

それでも、ギターアンプやオーディオの世界では、今も真空管が選ばれ続けています。
よく言われる理由は、この2つです。
① 歪み方が、なだらか
音を大きくしすぎて限界を超えたとき、真空管は急にガリッと割れずに、なだらかに歪みます。
その歪み方に、耳に心地よい響き(倍音)が加わって、「温かい」「太い」と感じられると言われています。

② 光る見た目と、待つ時間
オレンジ色に光るヒーター。
電源を入れてから、温まるのを待つ時間。
そういうヒューマニティックなところも含めて、「良い」を感じる人が多いんです。
正しい音か、心が動く音か
機能だけで見れば、トランジスタの方が正確で、雑音も少ない。
小さい部品として扱える。
それでも真空管が愛されるのは、下記の記事で書いた「いい音の2つの物差し」の話そのものです。

susuman
原音に忠実なのはトランジスタ。
心が動くと言われるのは、真空管。
どちらが正しいかではなく、何を「いい」と感じるか、なんですよね。
真空管は、今も進化している:Nutube
「真空管は昔のもの」と思いきや、日本で新しい真空管が生まれています。
KORGとノリタケが共同開発したNutube(ニューチューブ)です。
2015年に開発発表がなされ、発売が開始したのは2016年です。
- 昔の真空管と同じく、ヤカン・門・バケツの構造を持つ、ちゃんとした三極管。
- 電気の使用量は、昔の真空管の2%以下。電池でも動く。
- 大きさは、昔の真空管の30%以下
- 寿命は約3万時間と長い
- 動かすと、中がエメラルドグリーンに光る(かっこよ)
大きい、熱い、電気を食う、寿命がすぐ切れる。
トランジスタに主役を譲った理由を、ひとつずつ解決した真空管なんです。


susuman
KORGは、もともとギターアンプやシンセにも真空管を載せてきました。
真空管が手に入りにくいことや、扱いの難しさをよく知っていて、自分たちで使いやすい真空管を作れないかと考え、開発に至ったそうです。
2019年に発売されたKORGのVolca nubassは、まさにこのnutubeを使用したベースマシンです。
私の今の答え

真空管は、電球の困りごとから生まれました。
そして時代ごとに役割を変えながら、最後に音楽のところへたどり着きました。
一度はトランジスタに主役を譲ったのに、今も「いい音」の代名詞として愛されて、さらに新しい形に進化し続けています。

susuman
私自身も、冒頭にお話ししたとおり、真空管に対してメカの生々しい美しさを感じています。
正確で綺麗な音よりも、生っぽくふとましい、つややかな真空管の音の出方に非常に高揚感をおぼえます。
あなたは、どう思う?
いかがでしたでしょうか。
仕組みが分かると、見知った機材も少し違って見えませんか?
「よく分からんけど真空管愛好家」の方の参考になっていましたら、幸いです。
さて、ここでひとつ問いかけです。
あなたにとっての「いい音」とは、なんですか?
難しい問いですが、あなたが真空管が好きで、もしくは気になってここまで読んでくれたなら。
もう、その答えが分かるかもしれません。
